専属産業医とは?義務が発生する従業員数や選任方法を紹介!
会社の拡大に伴い、業員の人数が50人以上に増えると、
産業医を選任する必要が出てきます。
その産業医は嘱託と専属の2種類に分けられますが、
具体的に何が異なるのでしょうか。
この記事では、専属産業医を雇用する基準や、
専属産業医のメリット・デメリットについてさまざまな視点から比較し、
産業医の探し方についても紹介します。
【目次】
産業医とは
そもそも産業医とは、事業場で従業員が心身ともに健康で快適な状態で業務に従事できるよう、医学の専門的観点から健康管理のために助言や指導を行う医師のことであり、医師としての資格以外に、労働者の健康管理に必要な専門知識を有することが条件です。具体的には以下の4点を満たすものとされています。
- 厚生労動大臣が定める産業医研修の修了者。 これに該当する研修会は日本医師会認定の産業医学基礎研修と産業医科大学の産業医学基本講座。
- 労働衛生コンサルタント試験(試験区分保健衛生)に合格した者。
- 大学において労働衛生を担当する教授、助教授、常勤講師の職にあり、又はあった者。
- 産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指定するものにおいて当該過程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者。
出典:厚生労働省「産業医について」
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/080123-1a.pdf
産業医の業務内容
産業医は医師の資格の他に専門知識が必要であるとわかりましたが、その産業医の業務内容はどのようなものでしょうか。具体的な産業医の業務内容は大きく以下の5つに分けることができます。
出典:厚生労働省「産業医の職務」https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000qmvh-att/2r9852000000ryu1.pdf
嘱託産業医と専属産業医の違い
続いて、専属産業医と嘱託産業医の違いについて紹介します。
業務内容の違い
専属産業医と嘱託産業医には業務上の違いはありません。どちらも事業場で働く労働者の健康保持を目的としたアドバイスや指導を行います。
ただし、勤務日数の違いから仕事の進め方が異なる場合があります。それでは、専属産業医と嘱託産業医のどちらを雇用すれば良いのでしょうか。
選任基準の違い
産業医の選任の基準は事業内容と従業員人数によって異なります。具体的には以下の表で区分されます。
このように、産業医の選任の基準は業務内容と従業員人数によって異なります。
賃金・効果の違い
ここまでで、専属産業医と嘱託産業医の選任基準については理解できたと思います。続いてはコスト面や、従業員のケアの面から嘱託と専属の産業医を比較します。 嘱託産業医は、勤務日数が少ない分報酬は低めとなっていますが、従業員と接する時間が少ないためケアには限界があるといえます。一方の専属産業医は週3回程度、その会社の従業員として勤務するため事業所内の雰囲気や従業員の様子の変化などに気が付きやすく、従業員ケアの面からはかなり有効であるといえますが、勤務日数が多い分報酬も高くなっています。また、報酬の相場は医師の年齢に依存して上昇します。以下の表に専属と嘱託産業医の報酬相場を示します。これは一般的な金額であり、産業医の年齢や勤務地などによって変化します。
専属産業医のメリットデメリット
産業医を専属で雇用することと嘱託で雇用することの違いについては上記で理解できましたが、実際に専属産業医を雇用することのメリットとデメリットはなんでしょうか。
事業所によっては従業員の人数から専属産業医を選任しないといけない場合もありますが、嘱託産業医でも良い会社では専属と嘱託のどちらの産業医を雇用すれば良いのでしょうか。
産業医が常駐するメリット
事業所専属で勤務している
専属産業医は基本的に労働者と同様に事業所内で勤務をしています。
そのため、ほとんどの時間事業所にいることになるので、事業所内部のことをしっかりと把握することができます。事業場で過ごす時間が長ければ長いほど従業員の様子に目が届きやすくなります。
労働者の健康管理ができる
専属産業医は常に労働者と近い存在であるため、身近な立場から労働者の健康管理や指導をすることができます。日常的に労働者の様子を見守ることが可能なため、メンタルヘルス不調者の発見・支援や不適切な職場環境を改善するための提案といった業務を実行することができます。
連絡がすぐに取れる
専属の産業医は嘱託の産業医と異なり、週に複数回会社を訪問するため頻繁に連絡を取ることができます。
デメリット
報酬が高い
専属産業医には勤務日数に応じた報酬を支払う必要がありますが、企業と直接契約をしているためどうしてもその報酬額は高くなります。
相性が合わない場合がある
産業医との相性が悪く、なかなか相談できない社員が出てくることも考えられます。特に専属産業医の場合、直接契約した産業医を簡単に変えることは難しいため、慎重に産業医選びを行う必要があります。嘱託産業医の設置でよい企業はまず嘱託産業医を雇用したのち、専属産業医として雇用するか決めるというのも選択肢の一つになります。
苦手分野への対応が困難
専属の産業医を雇った場合、産業医が苦手とする分野もあります。また、女性労働者の場合は男性の産業医に相談しにくい場合も考えられます。
産業医の選任と手続き
ここまで産業医の選任要件や専属と嘱託産業医の違い、メリットとデメリットについて解説しました。しかしながら、産業医をどう探せば良いのかわからない方も多いのではないでしょうか。
産業医の探し方
産業医の探し方は以下のような方法があります。
医師会から産業医を紹介してもらう方法
登録している医師の人数が多いため、産業医を探しやすい点や、事業場の近隣で産業医を見つけやすい点がメリットです。医師会は全国それぞれの都道府県にあるため、所属地域の医師会に相談すれば近くの産業医を紹介してもらえるでしょう。
しかし、医師会が行うのは紹介のみであるため、報酬を含めた待遇面の交渉や業務の依頼は、すべて企業側での対応が必要となります。また、産業医の選任は事業場ごとに必要であるため、事業場が複数地域にある場合はそれぞれ探す必要があります。
医療機関から産業医を紹介してもらう方法
知り合いの医療機関であれば、会社の状態を理解したうえで産業医との仲介役を担ってもらえるかもしれません。知り合いの紹介であれば安心感はありますが、給与などの条件の交渉がしづらいというデメリットがあります。
相談した病院に産業医がいない場合は医療機関を探し直す必要があるため、選任まで時間がかかるかもしれません。
健診機関に相談して所属する産業医を紹介してもらう方法
健診機関と産業医を同時に探している場合には、まとめて依頼することで費用を安く抑えられることがあります。
産業医紹介サービス(マッチングサービス)を利用する方法
産業医紹介サービスとは、企業や事業場の特徴・ニーズに合わせて、産業医を紹介・マッチングしてくれる仲介サービスのことです。企業側での給与などの条件交渉を行う必要がないので少ない負担で産業医を見つけることができます。
産業医探しにおける注意点/選任後の手続き
無事に産業医と契約することができたら、選任報告書の提出を忘れずに行いましょう。
手続きの詳細
産業医を選任した後、「産業医選任報告書」を所轄の労働基準監督署に提出する義務があります。書式は厚生労働省のWebサイトでダウンロードできます。手続き期限は産業医選任の義務が生じた日から14日です。
報告に必要な書類は下記の通りです。
- 産業医の医師免許証(コピー)
- 労働安全衛生法規則第14条第2項、または規則附則第2条に規定する者であることを証明する書面(コピー可)
- 産業医選任報告書
選任届・書類の提出先
書類の提出方法は、窓口への提出・郵送・電子申請のいずれかを選択できます。電子申請は、年末年始・メンテナンスが必要な場合を除き、24時間365日利用可能です。提出方法は、紙の必要書類を所轄の労働基準監督署長に提出する方法と、電子政府の総合窓口「e-Gov(イーガブ)」からオンラインで申請する方法があります。
専属産業医を選任する際の3つの注意点
幅広いスキルを持っているか
専属産業医にまず求められるのは、幅広いスキルを持っていることです。スキルの幅が狭いと、偏った判断をしてしまうことが懸念されるため、幅広い視点から様々な可能性を考慮した上で適切な発案や指導をすることが求められます。
事業内容に関する知識を持っているか
産業医には、事業所の事業内容を把握し、知識を持っていることも求められます。
企業側は事業内容について説明し、産業医はそれをもとに適切な指導や助言をする必要があります。また、事業内容への理解が深いほど事業所巡視や面談も効率的に行えます。
まとめ
質の高い専属産業医は労働者に様々な利益をもたらします。反対に質が低く、自社に合わない産業医を選んでしまうと、労働者の働く意欲や生産性の低下をもたらします。専属産業医の産業医としての質は、企業・事業場の経営を左右する非常に重要な要素です。労働者に対してプラスの作用をもたらすためにも、上で説明した嘱託産業医との違いを理解し、しっかりと産業医を選ぶことが必要です。