産業医の設置義務は何人から? 産業医の役割と法定業務について紹介
多くの企業に義務化されていることの一つが「産業医の選任」です。
産業医は社員が健康を保ちながら仕事を行うために必要不可欠な存在ですが、
実は産業医の選任が義務ではない場合もあります。
どのような条件を満たした場合に、
産業医を選任する必要があるのか知らない方は多いでしょう。
この記事では産業医の選任義務および条件にくわえて、
産業医以外にも実施義務がある事柄についても詳しく解説していきます。
【目次】
産業医の役割
産業医について簡単に説明するとき、
「企業と業務契約を結んで働く医師」
というのが最も分かりやすいかもしれません。
産業医は病院で働く医師と同様に医師免許を取得していますが、
身体的な治療行為は行いません。
主な仕事となるのは、
特定の企業に所属する社員の健康状態を管理することです。
そのため医師が対応する対象となるのは病気の人だけでなく、
健康な人(または一見健康に見える人)も含まれます。
産業医は本人の健康状態や生活習慣等に基づいて、
適切なアドバイスを行ったり、病気の兆候が見られる場合には
必要に応じて医療機関の紹介等を行います。
産業医が行うアドバイスはすべて専門的な観点から行われるものであるため、
従業員は高い信頼を置くことができます。
産業医の選任義務・条件
多くの職場において産業医の設置が義務化されていることは理解していても、
義務化される基準については理解していないという方は多いでしょう。
そこで産業医の選任義務が発生する条件および報告義務について、
それぞれ解説していきます。
適用される条件
産業医の選出義務が発生するかどうかは
会社(事業場)の規模によって異なります。
基本的には従業員数が「50人以上」である場合は
無条件に1人の産業医を選任する必要があります。
さらに従業員が「1000人以上」の場合は専属産業医が1人以上、
さらに従業員が「3000人以上」の場合は2人以上の専属産業医を
選任しなければなりません。
ただし危険物や有害物質を扱う業種に関しては
「500人以上」が選任条件となるため、注意が必要です。
専属産業医とは、複数の企業に属さない産業医のことであり、
特定の企業に常駐する形で仕事を行うことになります。
このように産業医を設置する条件および人数は少し複雑なため、
会社としての規模が大きくなったときに
「産業医の人数が条件を満たしていない」という事態が
発生しないよう確実に把握しておきましょう。
専属産業医についてはこちら
1000人以上の会社では設置義務のある専属産業医の選び方を解説!
労基監督署への選任報告義務
産業医の選出義務が発生するのは、
従業員が50人を超えたその日です。
正確には、産業医の選出義務が発生したその日から「14日以内」に、
労働基準監督署へ報告する必要があります。
また報告時には決められた様式で報告書を提出する必要があります。
このようなルールがあるため、
「新人が入って50人になったけど、49人も50人もさほど変わらないのであとから選出すれば良いか」という考えは全く通用しません。
仮に、選出義務が発生したのにも関わらず選出していなかったり、
労働基準監督署に対して選出事実の報告を怠った場合は
「50万円以下の罰金」が課せられる場合があります。
産業医選任以外の実施義務
企業の実施義務は「産業医を選任する」ことだけではありません。
次は産業医を選任すること以外の7つの重要な実施義務について、
それぞれ解説していきます。
衛生委員会の設置
産業医選任の条件と同様に、労働者が50人以上の全ての企業は
「衛生委員会」を設置する必要があります。
この義務に関しては労働安全衛生法第18条において明文化されており、
主に職場における衛生を推進するための調査・審議を実施します。
基本的に衛生委員会のメンバーには産業医が必ず含まれることになっており、
その他に衛生管理者や議長、衛生分野に関して経験豊富な社員等が選任されます。
労働安全衛生法についてはこちら
産業医を選任する企業が知るべき法律は?労働安全衛生法などを紹介
安全委員会の設置
労働者が50人以上の場合、安全委員会を設置する必要があります。
ただし安全委員会に関しては、製造業や運送業など
一部の業種において労働者の人数が100人以上にならない限り、
設置義務が発生しません。
ちなみに衛生委員会・安全委員会
どちらの設置義務条件にも適合している企業は、
2つの役割をまとめた「安全衛生委員会」を設置することも可能です。
管理者の選任
企業は職場の規模に応じて
「総括安全衛生管理者」「安全管理者」「衛生管理者」
の3つを選任する必要があります。
選任するべき管理者の種類は業種や労働者数によって異なります。
総括安全衛生管理者とは
その名の通り職場における安全・衛生を総括する立場にいる人です。
加えて市安全管理者は職場の安全を確保するために整備・監督等の業務を行い、
衛生管理者は職場の衛生を保つための調査・整備等の業務を行います。
それぞれ異なる資格が必要であり、
知識だけでなく現場での経験が求められる場合が多いです。
ストレスチェックの実施
労働者が50人以上の企業は年に1回以上全ての従業員に対して
「ストレスチェック」を実施することが義務付けられています。
どのようなチェック手法を用いるかは職場によって異なりますが、
多くの場合は従業員一人ひとりがアンケート形式で簡単な質問に
答えることになります。
当然ながら回答結果等の従業員のプライバシーは保たれますが、
結果に応じて産業医や産業保健師が個別面談を行うこともあります。
ストレスチェックについてはこちら
【法人向け】診断も面談も丸投げ!6つのお勧めストレスチェックサービス比較
定期健康診断結果の報告書
労働者が50人以上の企業は1年に1度必ず「定期健康診断」を実施し、
報告書を労働基準監督署へ提出する必要があります。
ただし年に1度だけ行えば良い、というものではありません。
実際は新入社員を雇う際や、
有害物質等を取り扱う「特定業務従事者」と呼ばれる人が
業務を行う前にも健康診断が実施されることがあります。
それらの健康診断に関しては、労働基準監督署への報告は原則必要ありません。
職場巡視義務
企業に所属する産業医は1ヶ月または2ヶ月に1回以上
「職場巡視」を行う義務があります。
職場巡視は単なる「見回り業務」ではありません。
従業員の安全・健康を脅かすような要因がないか職場を隅々までチェックし、
改善が必要な点があれば安全衛生委員会で議題に挙げ、
措置が講じられるようにします。
具体的には、職場の室温や換気が適切に管理されているか空調を確認したり、
毎日適切な清掃が行われているか水回りをチェックすること等が含まれます。
ちなみに衛生管理者は、
この職場巡視を1週間に1回という高い頻度で行う義務があります。
選任の周知
安全衛生推進者および衛生推進者を選任する10人以上50人未満の企業は、
選任後に選任者の氏名を労働者が周知しやすい場所に掲示する必要があります。
そのため本人が「安全衛生推進者」や「衛生推進者」という文字の入った
腕章を身に付けることもあります。
産業医を選任したいなら
ここまで解説してきたように、
産業医は従業員の健康を守るために重要な役割を果たしていますから、
優秀で経験豊富な人材を選任したいと考えるのも当然です。
産業医を派遣や依頼できる企業の比較をしたい場合は、
比較サービスを活用しましょう。
まとめ
優秀な産業医を選任することは「社員の健康」だけでなく
「会社の健康」を促進することにつながります。
産業医選任以外の実施義務についても今一度理解し、
必要に応じてより多くの産業医や産業保健師を選任するなどの取り組みを行うなら、
全ての社員にとって「働きやすい会社」の実現に一歩近づくでしょう。